基本設定
近未来の地球を舞台にしたアクション作品。物理法則は現実を基本にしつつ、SF的な拡張が見られる。
死にまつわるエピソード
合成人間
本作の主人公である庚造一は東亜重工製の合成人間。物語序盤で任務に失敗し悔しがる素振りを見せるなど、合成人間は人間とほぼ同じ感情、精神を持つと思われる。
後半、造一は400年に渡りDRFとの戦いを続けることになるが、その前後で外見の変化がない。合成人間は部品の劣化が無い限り極めて長い期間を生きることができると思われる。
なお、作中には旧型の合成人間も登場する。彼らは造一たち新型の合成人間に比べ老化が早く、製造から300年ほどで中年~老人に近い外見へ変化する。ただし、物語の後半において、新生された人類との間に子を設けるなど、生殖能力が機能している様子が描かれている。人間の老化とは若干違うのだと推測できる。
脳転写手術
公衆衛生局のリーダーであるナレイン将軍が脳転写手術により古い肉体から新しい肉体へと自我の移植を試みる。脳転写手術は、古い脳から新しい脳に情報を移し、古い脳を安楽死させるという手順を踏む。作中では手術中に古い脳が覚醒するという事態になったが、このときナレインの自我がどのような状態だったのかは不明である。
新しい体に自我を移したナレインは当然ナレインとして活動するが、やはりスワンプマンの問題は否定できない。あくまで精密なコピーであって、元の自我とは別物である可能性がある。自我の同一性をどう判定するかというのは移植される自我にとっては極めて重要な問題であるが、周囲にとっては同一であろうが別物であろうが一切違いがない。作中においてナレインとフユと脳同調接続によってコミュニケーションを取るが、それすらも自我の同一性を保証しない。
また、崩壊しつつあるナレインの脳においてその自我も崩壊しつつあるという描写があるが、自我を構成する実体が何であるかは語られない。
カノエ・フユ
造一のパートナーであるAI。物語序盤で公衆衛生局の局員を射殺する造一を見て嘆息するなど、人間同様、豊かな感情表現が見られる。
物語の最終局面において、自らを犠牲にして造一を助ける際に「サヨウナラ」と別れの言葉を発する場面には心を打たれる。複物主の世界においては修復の技術が失われたという前提であるため、これが最後の別れ、自分の死であると認識していたはずである。400年以上に渡り同じ目的のために戦い続けた末の死別はいかなる感情をもたらすのだろう。あるいは時間の長さは意味を持たないということであろうか。
エピローグにおいてフユを修復する技術が見つかったという描写があり、物語は復活に含みを持たせたまま終わっている。復活したとして、そのフユはスワンプマンなのか、それとも眠りから覚めたように同一性を保持しているのか。興味は尽きない。
レーフとリルオード
物語の最後においてレーフはリルオードとの再会を果たす。ニアルディは、レーフが不老不死を望んだのはリルオードと永遠に生きるためとみていた。その通りだとすると、レーフは極めて個人的な願いのために人類の不老不死化を計画したことになる。
レーフの息子コズロフがリルオードと同じ不老不死者であるイオン・グリーンの保護者たろうとしたこと。複物主の叶えた願いがコズロフのものであったこと。ここからコズロフとレーフが同じ目的を抱いていたと考えることができる。コズロフはレーフとイオン・グリーンから生まれたクローンであるから、レーフとイオンの願いが複物主の世界として顕現したとも言える。